Incorporation

法人化と資産管理会社

不動産所得が大きくなると、個人の所得税・住民税と、法人の法人税等との税率差が広がります。一方で、法人には社会保険、均等割、決算費用、建物を移すときの税金がかかります。ここでは、法人化の3つの方式の違い、比べるときの数字、移した後の決算・申告を説明します。制度の説明は2026年9月時点のものです。

監修:三上浩平(公認会計士・税理士)/最終更新 2026年9月29日

Who

対象の方

  • 個人で賃貸住宅を持ち、所得が増えてきて法人化を検討している方
  • すでに資産管理会社を持っていて、決算・申告と融資の両面で整理したい方
  • 親族に物件を承継する前に、個人保有と法人保有の違いを知りたい方
  • 個人と法人の両方で物件を持ち、どちらで買うかを決めたい方

当事務所の顧問契約は、不動産オーナーの資産管理会社に限ります。設立の登記は司法書士の業務です。

Methods

法人化の3つの方式

賃貸不動産を法人に関与させる方法は、大きく3つに分かれます。どの方式も、家賃をどの主体が受け取り、どの主体が費用を負担するかが違います。

3方式の比較

方式物件の所有者法人の収入主な移転コスト主な留意点
管理委託方式個人のまま個人から受け取る管理料ほとんどなし管理の実態に見合う料金でないと、個人の経費として認められないことがある。効果は管理料の範囲に限られる
一括借上方式(サブリース)個人のまま入居者からの家賃と、個人へ払う賃料との差額ほとんどなし個人へ払う賃料が実態に合っているか。入居者との契約主体、金融機関の承諾を確認する
所有方式法人(建物を売買・現物出資などで移す)家賃の全額登録免許税、不動産取得税、譲渡所得、消費税など借入の承継に金融機関の同意が必要。移転後は個人の所得から外れる

土地は個人のままにして、建物だけを法人に移す形がよく使われます。その場合、土地の使用について個人と法人の間で取り決めが必要です。

同族の会社と個人の取引は、税務署が実態に合っていないと判断した場合、その取引がなかったものとして税額を計算し直すことがあります(法人税法132条、所得税法157条)。管理料や賃料は、実際に提供する役務や使う財産に見合った金額で、契約書と記録を残します。

Comparison

個人と法人の税負担を比べる数字

個人の所得税は、課税所得の額が増えるにしたがい税率が上がる7段階で、5%から45%です。課税所得が695万円を超える部分は23%、900万円を超える部分は33%です。これに住民税10%が加わり、所得税額の2.1%の復興特別所得税もかかります。

資本金1億円以下の法人の法人税率は、年800万円以下の所得の部分が15%、それを超える部分が23.2%です(2026年9月時点で確認した数字ですので、申告の時点の制度で再度確認します)。このほかに、地方法人税、法人住民税、法人事業税がかかります。法人は赤字でも、自治体ごとに定められた均等割がかかります。東京23区に事務所があり、資本金等の額が1,000万円以下で従業者数が50人以下の法人は、年7万円です(資本金等の額や従業者数が増えると、均等割の額も上がります)。令和8年4月1日以後に開始する事業年度からは、法人税額が年500万円を超える場合に、超える部分の4%の防衛特別法人税もかかります。

税率差だけでは判断できません。次の項目を並べて試算します。

  1. 個人の所得税・住民税・国民健康保険料の合計と、法人税等の合計。役員報酬を出す場合は、役員報酬にかかる所得税と社会保険料も加えます
  2. 法人を作る費用と、毎年の決算・申告の費用、均等割
  3. 建物を移すときの一時的な税金(登録免許税、不動産取得税、譲渡所得、消費税)
  4. 役員報酬を払うことによる所得の分散(家族が役員として実際に働く場合に限ります)
  5. 相続が起きたときの評価の違い。建物を法人に移すと、個人の財産は建物の分だけ減り、法人の株式が財産になります
  6. 金融機関からの借入の枠。法人名義で新しく借りるか、個人の借入を移すか

法人化の目安は、所得の額だけでは決まりません。一般に、個人の所得税率が33%になる課税所得900万円前後を超えるあたりから比較を始める方が多いですが、借入の返済額、家族の状況、将来の売却の予定によって結論は変わります。当事務所では、上の項目を実際の数字で試算し、複数のパターンを並べます。

Transfer costs

所有方式で建物を移すときの税金

建物を個人から法人に移す方法は、売買、現物出資、贈与などがあります。移転の方法によって、次の税金が発生します。

  • 譲渡所得(個人):時価で売買する場合、売却価額が建物の未償却残高(簿価)を超えると、その差額に所得税・住民税がかかります。築古で簿価が低い建物は、時価との差が大きくなることがあります
  • 消費税:建物の売買は課税取引です。個人が課税事業者でない場合は、消費税の申告は不要でも、法人側の仕入税額控除の可否を確認します
  • 登録免許税・不動産取得税:所有権移転登記と、取得した法人への不動産取得税がかかります。税額は固定資産税評価額を基に計算します
  • 借入金:金融機関の同意を得て法人に承継する方法と、法人が新たに借入をして個人の借入を返す方法があります。いずれも、期限前の返済の手数料や抵当権の設定費用を確認します
  • 土地建物の按分:移転する建物の価額は、時価または固定資産税評価額を基に決めます。按分の根拠を資料に残します

移転の方法ごとの税額を実際の数字で試算します。試算は、法人化を決める前の判断材料としてお渡しします。

Settlement

資産管理会社の決算と申告

法人は、事業年度の終了の日の翌日から2か月以内に、法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税の申告と納付をします(申告期限の延長の特例を届出ている場合は、法人税は1か月延長されますが、納付は延びません)。資産管理会社で必要な作業は次のとおりです。

  1. 1

    月次の記帳

    家賃収入、管理料、借入金の返済と利子、修繕費、租税公課を法人の口座から記帳します。個人との立替や貸借は、科目を分けて残高を管理します。

    事務所
  2. 2

    固定資産台帳と返済予定表

    建物・設備の償却費と、借入の利子・元本を確定させます。

    事務所
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    役員報酬の確認

    役員報酬は、原則として毎月同額(定期同額給与)でないと、その分が法人の経費(損金)になりません。決める時期と改定の可否を、期首の前に確認します。

    ご一緒に
  4. 4

    決算書と申告書の作成

    貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表、勘定科目内訳書、法人事業概況説明書を作成し、電子申告します。

    事務所
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    消費税の確認

    住宅の家賃は非課税ですが、駐車場や事務所の賃料は課税されます。課税売上の有無と基準期間の判定を毎年確認します。

    事務所
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    決算報告

    決算の内容、返済予定表の一覧、翌年の投資方針、納税の予測を年1回お渡しします。金融機関に提出する場合の資料も整えます。

    事務所

Documents

必要書類

  • 法人化の検討時:直近3年分の確定申告書、青色申告決算書、固定資産台帳、借入の返済予定表、物件ごとの賃料一覧
  • 建物を移す場合:登記事項証明書、固定資産税の評価証明書、売買契約書、金融機関との取り決め
  • 決算時:株主構成、通帳の写し(または入出金データ)、借入金明細、領収書・請求書、管理会社の送金明細、役員報酬の議事録

Fee

期間の目安と料金

資産管理会社の顧問契約は、1棟目が月額33,000円、2棟目からは1棟ごとに11,000円が加わります(税込)。決算・申告は月額に含まれます。法人化を検討する段階の試算は、個別相談(90分22,000円・税込、契約時は初月に充当)でお受けします。個別の試算や移転手続きの支援は、お見積りです。

FAQ

よくある質問

何棟から法人化を考えればよいですか。
棟数では決まりません。家賃の総額から経費と利子、減価償却費を引いた不動産所得の額、借入の返済額、家族構成で決まります。たとえば、所得が小さいうちは均等割と決算費用のほうが重く、法人にしないほうが有利な場合もあります。
法人化すると融資は受けやすくなりますか。
融資の判断は金融機関ごとに異なります。個人の借入を法人へ移せるか、法人が新しく借りられるかは、金融機関が個人の状況と法人の決算書の両方を見て決めます。法人化によって融資が受けやすくなることを、当事務所が約束することはできません。
家族を役員にして報酬を払えば節税になりますか。
役員報酬は、実際に役務を提供している人に、その役務に見合う金額を払う場合にのみ経費になります。名前だけの役員への報酬は認められないことがあります。
法人にした後、元に戻すことはできますか。
法人を解散し、建物を個人に戻す場合にも譲渡所得や登記の費用がかかります。元に戻す費用も、法人化の検討時にあらかじめ見ておきます。

監修:三上浩平(公認会計士・税理士) 東京税理士会 登録番号 第144424号。制度の内容は2026年9月時点のものです。代表税理士のページ

Sources

出典

  1. 国税庁 No.5759 法人税の税率https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5759.htm
  2. 国税庁 No.2260 所得税の税率https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm
  3. 国税庁 No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3202.htm
  4. 国税庁 No.6201 非課税となる取引https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6201.htm
  5. 東京都主税局 法人事業税・法人都民税(均等割)https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/shitsumon/work/a1
  6. 国税庁 令和7年度税制改正のあらまし(防衛特別法人税を含む)https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0025004-109_1.pdf

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