Incorporation
法人化と資産管理会社
不動産所得が大きくなると、個人の所得税・住民税と、法人の法人税等との税率差が広がります。一方で、法人には社会保険、均等割、決算費用、建物を移すときの税金がかかります。ここでは、法人化の3つの方式の違い、比べるときの数字、移した後の決算・申告を説明します。制度の説明は2026年9月時点のものです。
Who
対象の方
- 個人で賃貸住宅を持ち、所得が増えてきて法人化を検討している方
- すでに資産管理会社を持っていて、決算・申告と融資の両面で整理したい方
- 親族に物件を承継する前に、個人保有と法人保有の違いを知りたい方
- 個人と法人の両方で物件を持ち、どちらで買うかを決めたい方
当事務所の顧問契約は、不動産オーナーの資産管理会社に限ります。設立の登記は司法書士の業務です。
Methods
法人化の3つの方式
賃貸不動産を法人に関与させる方法は、大きく3つに分かれます。どの方式も、家賃をどの主体が受け取り、どの主体が費用を負担するかが違います。
3方式の比較
| 方式 | 物件の所有者 | 法人の収入 | 主な移転コスト | 主な留意点 |
|---|---|---|---|---|
| 管理委託方式 | 個人のまま | 個人から受け取る管理料 | ほとんどなし | 管理の実態に見合う料金でないと、個人の経費として認められないことがある。効果は管理料の範囲に限られる |
| 一括借上方式(サブリース) | 個人のまま | 入居者からの家賃と、個人へ払う賃料との差額 | ほとんどなし | 個人へ払う賃料が実態に合っているか。入居者との契約主体、金融機関の承諾を確認する |
| 所有方式 | 法人(建物を売買・現物出資などで移す) | 家賃の全額 | 登録免許税、不動産取得税、譲渡所得、消費税など | 借入の承継に金融機関の同意が必要。移転後は個人の所得から外れる |
土地は個人のままにして、建物だけを法人に移す形がよく使われます。その場合、土地の使用について個人と法人の間で取り決めが必要です。
同族の会社と個人の取引は、税務署が実態に合っていないと判断した場合、その取引がなかったものとして税額を計算し直すことがあります(法人税法132条、所得税法157条)。管理料や賃料は、実際に提供する役務や使う財産に見合った金額で、契約書と記録を残します。
Comparison
個人と法人の税負担を比べる数字
個人の所得税は、課税所得の額が増えるにしたがい税率が上がる7段階で、5%から45%です。課税所得が695万円を超える部分は23%、900万円を超える部分は33%です。これに住民税10%が加わり、所得税額の2.1%の復興特別所得税もかかります。
資本金1億円以下の法人の法人税率は、年800万円以下の所得の部分が15%、それを超える部分が23.2%です(2026年9月時点で確認した数字ですので、申告の時点の制度で再度確認します)。このほかに、地方法人税、法人住民税、法人事業税がかかります。法人は赤字でも、自治体ごとに定められた均等割がかかります。東京23区に事務所があり、資本金等の額が1,000万円以下で従業者数が50人以下の法人は、年7万円です(資本金等の額や従業者数が増えると、均等割の額も上がります)。令和8年4月1日以後に開始する事業年度からは、法人税額が年500万円を超える場合に、超える部分の4%の防衛特別法人税もかかります。
税率差だけでは判断できません。次の項目を並べて試算します。
- 個人の所得税・住民税・国民健康保険料の合計と、法人税等の合計。役員報酬を出す場合は、役員報酬にかかる所得税と社会保険料も加えます
- 法人を作る費用と、毎年の決算・申告の費用、均等割
- 建物を移すときの一時的な税金(登録免許税、不動産取得税、譲渡所得、消費税)
- 役員報酬を払うことによる所得の分散(家族が役員として実際に働く場合に限ります)
- 相続が起きたときの評価の違い。建物を法人に移すと、個人の財産は建物の分だけ減り、法人の株式が財産になります
- 金融機関からの借入の枠。法人名義で新しく借りるか、個人の借入を移すか
法人化の目安は、所得の額だけでは決まりません。一般に、個人の所得税率が33%になる課税所得900万円前後を超えるあたりから比較を始める方が多いですが、借入の返済額、家族の状況、将来の売却の予定によって結論は変わります。当事務所では、上の項目を実際の数字で試算し、複数のパターンを並べます。
Transfer costs
所有方式で建物を移すときの税金
建物を個人から法人に移す方法は、売買、現物出資、贈与などがあります。移転の方法によって、次の税金が発生します。
- 譲渡所得(個人):時価で売買する場合、売却価額が建物の未償却残高(簿価)を超えると、その差額に所得税・住民税がかかります。築古で簿価が低い建物は、時価との差が大きくなることがあります
- 消費税:建物の売買は課税取引です。個人が課税事業者でない場合は、消費税の申告は不要でも、法人側の仕入税額控除の可否を確認します
- 登録免許税・不動産取得税:所有権移転登記と、取得した法人への不動産取得税がかかります。税額は固定資産税評価額を基に計算します
- 借入金:金融機関の同意を得て法人に承継する方法と、法人が新たに借入をして個人の借入を返す方法があります。いずれも、期限前の返済の手数料や抵当権の設定費用を確認します
- 土地建物の按分:移転する建物の価額は、時価または固定資産税評価額を基に決めます。按分の根拠を資料に残します
移転の方法ごとの税額を実際の数字で試算します。試算は、法人化を決める前の判断材料としてお渡しします。
Settlement
資産管理会社の決算と申告
法人は、事業年度の終了の日の翌日から2か月以内に、法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税の申告と納付をします(申告期限の延長の特例を届出ている場合は、法人税は1か月延長されますが、納付は延びません)。資産管理会社で必要な作業は次のとおりです。
- 1事務所
月次の記帳
家賃収入、管理料、借入金の返済と利子、修繕費、租税公課を法人の口座から記帳します。個人との立替や貸借は、科目を分けて残高を管理します。
- 2事務所
固定資産台帳と返済予定表
建物・設備の償却費と、借入の利子・元本を確定させます。
- 3ご一緒に
役員報酬の確認
役員報酬は、原則として毎月同額(定期同額給与)でないと、その分が法人の経費(損金)になりません。決める時期と改定の可否を、期首の前に確認します。
- 4事務所
決算書と申告書の作成
貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表、勘定科目内訳書、法人事業概況説明書を作成し、電子申告します。
- 5事務所
消費税の確認
住宅の家賃は非課税ですが、駐車場や事務所の賃料は課税されます。課税売上の有無と基準期間の判定を毎年確認します。
- 6事務所
決算報告
決算の内容、返済予定表の一覧、翌年の投資方針、納税の予測を年1回お渡しします。金融機関に提出する場合の資料も整えます。
Documents
必要書類
- 法人化の検討時:直近3年分の確定申告書、青色申告決算書、固定資産台帳、借入の返済予定表、物件ごとの賃料一覧
- 建物を移す場合:登記事項証明書、固定資産税の評価証明書、売買契約書、金融機関との取り決め
- 決算時:株主構成、通帳の写し(または入出金データ)、借入金明細、領収書・請求書、管理会社の送金明細、役員報酬の議事録
Fee
期間の目安と料金
資産管理会社の顧問契約は、1棟目が月額33,000円、2棟目からは1棟ごとに11,000円が加わります(税込)。決算・申告は月額に含まれます。法人化を検討する段階の試算は、個別相談(90分22,000円・税込、契約時は初月に充当)でお受けします。個別の試算や移転手続きの支援は、お見積りです。
FAQ
よくある質問
何棟から法人化を考えればよいですか。
法人化すると融資は受けやすくなりますか。
家族を役員にして報酬を払えば節税になりますか。
法人にした後、元に戻すことはできますか。
監修:三上浩平(公認会計士・税理士) 東京税理士会 登録番号 第144424号。制度の内容は2026年9月時点のものです。代表税理士のページ
Sources
出典
- 国税庁 No.5759 法人税の税率https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5759.htm
- 国税庁 No.2260 所得税の税率https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm
- 国税庁 No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3202.htm
- 国税庁 No.6201 非課税となる取引https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6201.htm
- 東京都主税局 法人事業税・法人都民税(均等割)https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/shitsumon/work/a1
- 国税庁 令和7年度税制改正のあらまし(防衛特別法人税を含む)https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0025004-109_1.pdf
